プロシンガーが教える「心と身体に効く発声法」 第1回

響きのある声、豊かな声はトレーニング次第で手に入る!

自分の喋り方に自信がない、カラオケでもっとうまく歌えるようになりたい……。そんな「声」に関する悩みをお持ちの方は案外多いのではないでしょうか。
例えば、普段耳にする自分の声は落ち着いて聞こえるのに、録音されたものを聞いてみたら全然違って聞こえて恥ずかしくなった、なんていう経験をした方もいらっしゃると思います。筆者も昔から声にコンプレックスがあり、もっと通る声を出したい、カラオケでも自信を持って楽しんで歌いたいと悩める者のひとり。ビジネスシーンでも、声の雰囲気ひとつで営業やプレゼンテーションの時の印象がガラリと変わったりしますよね。
今回はそんなお悩みを抱えた方や、声を出すことが心身にもたらすプラスアルファの効果を、プロのシンガーソングライター、ボイストレーナーのLillia(リリア)さんにお聞きしました。
 
 

 
 
——まず率直にお聞きしたいのですが、Lilliaさん自身、とても澄んだ歌声をお持ちですよね。人に癒しを与えるヒーリングボイスの持ち主でいらっしゃる。その恵まれた才能を発揮するべく、歌手を志したんですか?

「いえ、以前はピアノを主にやっていました。初めはそっち(ピアノ)の方が広い音域を出せるし、歌よりも表現の幅があると思って。でもある時、人の声には相手に何かを伝えるパワーがあるこれに優る“楽器”はないと気付いたんです」
 
 
——なるほど。人の声に優る楽器はない、と。とてもいい言葉ですね。それでLilliaさんはシンガーになられた訳ですね。

「はい。でも、日々ボイストレーニングの積み重ねで、常に自分の課題と向き合っているんですよ。もちろん、生まれながらに素晴らしい声を持った方もいらっしゃいますが、でもレッスン次第で、通らない声や、出なかった音域を克服することは十分可能なんです」
 
 
——Lilliaさんはボイストレーナーでもいらっしゃいますが、いい声を出す方法とは、具体的にどのようなものなんでしょう。

「そうですね。まずは声の出る仕組みから説明しましょう。いわゆる『響きのある、通る声』というのは、声帯という左右一対のヒダがピッタリ合わさった状態で振動している時に出るんです。声帯を閉じていないと、息の混じったスカスカした声になっちゃう。
でも無駄な力を入れて閉じようとすると苦しそうな声になっちゃうんです。だから、まずは声帯をピッタリ閉じなきゃいけない。そのためには『腹式呼吸』を行うことが必要なんです」
 
 
——腹式呼吸って、鼻から大きく息を吸ってお腹を膨らませ、息を吐き出す時には逆にお腹を凹ませながら口からゆっくり吐く……というものですよね?

「はい。正確に言うと、腹筋と横隔膜の動きで呼吸するのが腹式呼吸なんです。よく丹田(おへその辺り)に意識を集中する、と言いますが、息を吸う時はしっかり横隔膜を下げて、肺に十分な呼気を入れてあげる。吐く時は、腹筋の力で横隔膜を押し上げ、息を出すという感じです」
 
 
——説明を伺うと、何だか酷く難しそうで……少し不安になるんですが(笑)

「(笑)。でも、赤ちゃんの頃はみんな腹式呼吸をしてるって言われているんですよ。腹式呼吸は無駄な力みの取れた、実に自然な呼吸法なんです。俗にいう胸式呼吸(肩や胸を使った呼吸)は、実は肺の下の方まで呼気が行き渡っていない。いわゆる『浅い呼吸』です。
でも腹式呼吸なら、横隔膜をしっかり下げることで肺が十分に膨らみ、より多くの空気を取り込める。息を吐く時も、腹筋と横隔膜でコントロールしながら、肺の空気を押し出します。そうすると、喉や胸の力みが取れてリラックスした状態になり、声帯も自然にピッタリ閉じてくれるんです。だから、腹式呼吸をマスターすることで、響きのある豊かな声が出せるようになる、という訳です」
 
 

美しい声は美しい姿勢から 自宅でできる美声レッスン

——腹式呼吸をマスターするには、何か特別なレッスンが必要なんですか?

「いいえ、どなたでも簡単に自宅でできるトレーニング法がありますよ。まずは、日頃から姿勢を正しくする習慣をつけること。前屈みで猫背になりがちな方は、肩を後ろにスッと引き、胸を張ってみてください。この時、余計な力は入れないで。あくまでリラックスした状態で、胸の真ん中を太陽に照らすイメージです。この姿勢だと、胸骨が前後に動かず胸式呼吸をし辛くなるんです。だから、身体が腹式呼吸をしやすくなる。
それと、立つ時は足の裏をピタッと地面につけて、その上にくるぶし、膝、骨盤、頭……と、順番に乗せていくつもりで。大地のエネルギーを足の裏から吸収し、身体の芯に取り入れ、頭のてっぺんまで真っ直ぐ通す感じです。これが力みの取れた自然な姿勢です。私も日々の生活の中で実践していて、効果を感じています」
 
 
——いい声を出すための姿勢は見た目にも美しい、ということですね。

「そうなんです。私が聞いたところによると、オペラやカンツォーネで有名なイタリアの人たちは八割がた腹式呼吸をしているそうです。彼らは街中でも実に堂々と歩いていますよね(笑)。
逆に日本人の八割は肩や胸で息をしている。縮こまった姿勢では息も浅くなるし、意図せず身体のあちこちに無駄な力を入れていますから、必要以上に疲れてしまうそうなんです」
 
 
——確かに、背中を丸めている状態って、ストレスを自ら抱え込んでいるようなものですね。でも余計な力を抜くのって、意外と難しいと思うのですが。

お風呂で腹式呼吸の練習をするといいですよ。湯船につかっている時は自然と脱力していますから、その状態で。私の師事している村尾陸男先生によれば、横隔膜を上下させることで、みぞおちの辺りにある太陽神経叢という神経細胞の束をマッサージする効果も期待できるそうなんです。
太陽神経叢は自律神経を司る「第二の心臓」とも呼ばれていて、ここを刺激してやることで、心身の不調を和らげる効果があると言われています」
 
 
——自律神経を整えることは、健康な身体の維持にも繋がりますね。早速、私も実践してみようと思います。

(続く)
 
 

 
 

Lillia(リリア) プロフィール

4歳からピアノを習い、音楽大学の声楽科を卒業。現在はシンガーソングライター、ボイストレーナーとして活躍中。1st.マキシシングル『Earth』をリリース。

 
 
・Lillia Official Ownd

・第二回はこちら
・第三回はこちら

投稿者プロフィール

羽野 知
羽野 知
編集者兼フリーランスライター。アパレル業界、旅行代理店、インテリア家具販売、不動産業、カフェ経営、某コンビニエンスストア勤務など、様々なキャリアを持っている。趣味はラグビーをはじめとするスポーツ観戦、路傍の花と自由な猫たちに出会うこと。現在は声帯の仕組みについて独学中。

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